抜歯矯正と歯根吸収の関係 〜ジグリングフォースがもたらすリスク〜
■ 結論
矯正治療において、「歯を抜いて並べる」いわゆる抜歯矯正は、場合によっては歯の根っこ(歯根)が短くなるリスクを伴います。
特に、治療中にジグリングフォースと呼ばれる力がかかっている場合、歯根吸収のリスクは確実に高まります。
■ ジグリングフォースとは?
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、**ジグリングフォース(jiggling force)**とは、
歯に対して一定の方向ではなく、前後左右に揺さぶるような力が継続的にかかることを指します。
このような力は、以下のような要因で生じやすくなります:
- 矯正装置の設計や装着精度が不安定
- 舌で前歯を押す癖(舌癖)
- 唇で歯を押し戻す力
- 口呼吸による持続的な圧力
このジグリングフォースが長くかかると、歯を支えている「歯根膜」が一方向に再生できず、
破骨細胞(骨を壊す細胞)が慢性的に活動してしまい、歯の根が削れて短くなってしまうのです。
■ なぜ「抜歯矯正」で起こりやすいのか?
抜歯をしてスペースを作り、そのすき間を埋めるために歯を大きく動かす必要があります。
このとき、以下のような状況が揃うとジグリングフォースが発生しやすくなります:
- 力の方向が安定していない(設計・装置・装着精度に問題)
- 舌や唇から不安定な圧が加わる(習癖への配慮不足)
- アライナーやワイヤーが正しく機能していない
つまり、単に「歯を引っ張って動かす」だけではなく、どんな力で、どの方向に、どのように動かすかまで考慮されていないと、
歯根にとって負担の大きい状態が続き、歯根吸収につながるのです。
■ 医学的エビデンス
- Brezniak & Wasserstein (2002) は、「過度の力」や「不安定な矯正力」は歯根吸収を有意に増加させると報告。
- Barbagallo et al. (2008) の動物実験では、一定方向の力よりもジグリング的な揺さぶる力の方が歯根吸収が大きかったとされています。
■ 歯根吸収を防ぐには?
ジグリングフォースを回避することが、歯根を守るための大前提です。
当院では以下の点に細心の注意を払っています:
- 舌癖・口呼吸などの習癖を治療前に把握し、必要に応じて介入
- アライナーや装置が、的確な方向へ力をかけるよう精密に設計
- 下顎前歯などへの過剰な圧力がかからないようにトルクやアンカレッジを調整
- 治療中も、必要に応じてレントゲンやCTで歯根の状態をモニタリング
■ 最後に
歯並びを整える矯正治療において、**「どれだけ動かすか」だけでなく「どう動かすか」**が非常に重要です。
特に抜歯矯正では、歯の根にとって負担がかかる条件が揃いやすいため、より慎重な設計と管理が求められます。
「ジグリングフォースをかけない設計」こそが、見た目だけでなく将来の歯の健康も守る矯正の基本です。