小児歯科
検査⇒診断⇒できるだけ削らずに歯を強く
昔のむし歯 VS いまのむし歯(子どものむし歯の現状)
※昔は、お子様にむし歯があるのが当たり前の時代でした。今はむし歯があるお子様は非常に少なく、しかも軽症化しています。しかし、だからこそ注意が必要なのです。
★厚生労働省の下記のデータから、2016年の時点で「5歳未満ではむし歯がないのが普通」と言えます。
<参考>『平成28年歯科疾患実態調査報告』(厚生労働省健康政策局調査)
★令和の現代では、5才未満でむし歯のあるお子さんの場合、正直に申し上げれば、昔なら上の図でC型に該当する方であり、非常にむし歯になりやすいので、努力だけではむし歯を防ぎきれない印象があります。
急激に症状が悪化する子どものむし歯
※むし歯になりやすい子どもの虫歯は重症化など進行が早いケースがあります。ですので、「むし歯になってから病院に行けばイイや」では遅いです。
2016年の時点で 統計的には、5歳以下でむし歯のあるお子さんは ほぼいなくなりました。▶
しかし、努力してもむし歯が進行してしまうケースもあるのが現状です。
エナメル質形成不全等で、歯の質が弱かったり、お口の中が酸性である状態から、中性に戻す唾液の力が弱かったり、唾液が少ない場合等は、生活習慣の少しの変化で、むし歯が急激に進んでしまう場合もあります。詳しくはこちら▶
![](https://komura.jp/wp/wp-content/uploads/2024/12/エナメル質形成不全-診療室-1024x755.jpeg)
繰り返しになりますが、現在、むし歯があるお子様は昔で言うところのC型の方、つまり非常にむし歯になりやすい方と言っても良いと思います。
ですから甘いものを普通に食べていたら、たとえ歯医者に毎月通っていたとしてもむし歯は防ぐことはできません。
甘いものを厳格に制限した上で、ラバーダムを使った治療▶も行っている大学病院の保存科▶等での望ましいです。
甘いものを厳格に制限できないのであれば、残念ですが、当院のやり方ではむし歯の進行を防ぐことはできません。割り切って早めに削るしかありませんので、他院をご紹介させていただく形になります。
(備考)個人的にはこのようなケースは、ゴールドクラウン▶︎が良いと考えていますが、審美面でなかなかご理解を得るのは難しいところです。
ちなみに当院のスタッフはゴールドクラウンを入れています。
![](https://komura.jp/wp/wp-content/uploads/2024/12/6aa7df7e-1fe9-4b59-858f-7c28c78aa9c9.jpg)
いまはむし歯になる前が大事
むし歯はいかに早く対策できるかがメイン
対策には3つあります。
第一の鍵 お子様に砂糖の味を教えることを遅らせる
★2012年に「砂糖についての毒性:その真実」という論文が『ネイチャー』という英国の自然科学雑誌に掲載されました。▶
この論文で「砂糖は体に毒」ということが示されました。
砂糖は身体にとっては毒です。
しかし、この事実は世の中に広まっていません。
★「三つ子の魂百まで」▶という 「ことわざ」があります。
3歳までの食生活が人生に大きな影響を与えます。
★「少なくとも3歳過ぎるまではお子様に甘い物を教えない」ことが、お子様のお口の未来にとって極めて重要です。
砂糖は非常に依存性のある物質ですが、今の大人は子どもの頃から砂糖が当たり前の生活を送ってきています。
★ 私自身は、歯科医になってからはできるだけ間食はせず、砂糖はできるだけ控えています。身長は171cmで体重は58kgで、20歳の時とほぼ変わりません。新規のむし歯や歯周病もありません。甘いものが欲しいと思うこともあまりないので、甘いものを食べなくても特に苦痛ではありません。
私がここまで砂糖の弊害を述べるのは、私が在籍した大阪大学歯学部小児歯科学講座の初代教授である祖父江鎭雄先生が下の画像の内容をいつも言われていたからです。
戦時中、お菓子を食べられなかった祖父江先生は、頑強な大人になりました。
私が在籍時、祖父江教授は50代でしたが、身長は176cmで、高校時代はバレーボールでインターハイ出場、水泳では教室員の誰よりも早く泳ぐ、文武両道でした。
朝は9時前にお越しになり、夜は22時くらいまでお帰りにならなかったので私たちは本当に大変でした(笑)
一般論として、人は好きなモノを否定されると感情的になりがちですが、正直に申し上げれば、多くの方が「砂糖の依存症」であると言っても過言ではないと思います。
開業当初から、私たちは「お子様だけでも甘いものを好きにしない」ということが長期的に見てお子様の将来にとって重要であると考えています。
★むし歯になりやすい方の場合、砂糖なしでは日々の生活ができなくなってしまうと、「むし歯が次々とできる」→「順番に歯を削る」→「歯の神経を取る」→「インプラント」→「入れ歯」
というパターンになってしまいます。
たとえアメ一個であっても非常に小さなむし歯菌にとっては酸を産生するには十分です。
★ さて、「子供にお酒を与える事は禁止されています。なぜでしょう?」
「その理由:身体に害であるだけでなく、依存性があるからです。」
小さい頃から飲酒の習慣がついてしまい、お子様が「今日はビール、その次の日はワイン、その次の日は日本酒というような毎日を過ごすようになったらどうでしょう?
飲酒が常態化したライフスタイルでは、多くの人が70歳までに病気になってしまいます。
★お子様を「酒の依存症」にさせたい保護者はおられません。しかし、「砂糖の依存」に関しては、ほとんどの方が無関心です。
砂糖は酒やタバコと同じく、身体に良くない嗜好品の一つであり、病気の原因です。
しかし、砂糖はタバコのように他人に迷惑をかけることがないため、社会的には容認されています。
★ しかし、アメリカでは、 子供に砂糖が入っていない100%ジュースですら飲ませないように注意している意識の高い保護者 ▶が増えています。
釈迦は「欲望が尽きないことが苦しみの原因になる」と説いています。
健康な人生を送るためには、一定以上のストイックさは必要だと個人的にも実感しています。
祖父母様が孫にお菓子を与えるケースで、重篤なむし歯になっているケースを時々見かけます。
昭和の時代は子どものむし歯はあたりまえでしたが、令和においては、むし歯がない子がほとんどです。
お孫さんが、将来辛い思いをしないように甘いおやつを与えることはお控え下さるよう重ねてお願い申し上げます。
第二の鍵 高濃度のフッ素を使用する。
現場での印象ですが、ここ10年くらいでお子様のむし歯が激減した最大の理由はフッ素だと思います。
2023年度には4つの学会がフッ素入り歯磨きの使用を推奨しています。▶
当院は、1995年から「浅いむし歯をいきなり削るのではなく、まずはいろいろな濃度のフッ素を使い分けて観察する」という基本方針です。
詰め物をやり直しするときには、健康な歯の部分もどうしても削れてしまいます。数年に1回詰め物をやり直ししていけば、どんどん歯質がなくなってしまいます。
「各種のフッ素で歯質を強化し、むし歯が浅い段階で詰め物をしないことが大切」です。
下に学会から推奨された利用方法の要点を転載します。
年齢 | 使用量(※1) | フッ化物濃度(※2) | 使用方法 |
---|---|---|---|
歯が生えて から2歳 |
米粒程度 (1〜2mm程度) ![]() |
900〜1000ppmF | ・フッ化物配合歯磨剤を利用した歯みがきを、就寝前を含め1日2回行う。 ・900~1000 ppmFの歯磨剤をごく少量使用する。歯みがきの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。 ・歯磨剤は子どもの手が届かない所に保管する。 ・歯みがきについて歯科医師等の指導を受ける。 |
3~5歳 | グリーンピース程度 (5mm程度) ![]() |
900〜1000ppmF | ・フッ化物配合歯磨剤を利用した歯みがきを、就寝前を含め1日2回行う。 ・歯みがきの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。 ・こどもが歯ブラシに適切な量の歯磨剤をつけられない場合は、保護者が歯磨剤をつける。 |
6歳~成人 (高齢者を含む) |
歯ブラシ全体 (1.5cm〜2cm程度) ![]() |
1400~1500 ppmF | ・フッ化物配合歯磨剤を利用した歯みがきを、就寝前を含め1日2回行う。 ・歯みがきの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。 ・チタン製歯科材料(インプラントなど)が使用されていても、自分の歯がある場合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。 |
・乳歯が生え始めたら、ガーゼやコットンを使っておロのケアの練習を始める。歯ブラシに慣れてきたら、歯ブラシを用いた保護者による歯みがきを開始する。
・子どもが誤って歯磨剤のチューブごと食べるなど大量に飲み込まないように注意する。
・水道水フロリデーションなどのフッ化物全身応用が利用できない日本では、歯磨剤に加えフッ化物洗口やフッ化物歯面塗布の組合せも重要である。
※1:写真の歯ブラシの植毛部の長さは約2cmである。
※2:歯科医師の指示によりう蝕のリスクが高いこどもに対して、1,000ppmFを超える高濃度のフッ化物配合歯磨剤を使用することもある。
★砂糖の依存を防ぎ、高濃度のフッ素を適切に使用すれば、非常にむし歯になりやすいお子様は別として、多くのケースでむし歯はほぼなくなると思います。そのために2歳頃から通っていただきたいと願っています。
第3の鍵 国際基準に基づいた診断
むし歯になりやすさというのは、人によっても違いますし、時期によっても異なりますし、生活習慣によっても変わりますから、「黒かったら削る」という画一的な対応は間違っています。
日本の歯科は、昔から削り過ぎだと思いますので、当院の診断はICDASという国際基準で行います。
![](https://komura.jp/wp/wp-content/uploads/2024/12/1735073471936-f1e289fc-5ba5-4f23-8fd2-3e13bd3bf3d3_1.jpg)
年に数回受診していただき、長年、下のようなデジタル機器を用いて蓄積してきたデータを元に判断し、勘に頼らない診療を心がけています。
![](https://komura.jp/wp/wp-content/uploads/2025/01/IMG_6899-731x1024.jpeg)
ただし様々な要因でむし歯が進行した場合▶は歯を削ることが必要になります。
通院・治療編
当院の治療方針
★「遅くとも2歳くらいからお越しいただき、できるだけ削らない治療を行う」=これが開業当初からの理想です。
★健康で幸せな人生を過ごすためには、80歳で20本以上の歯を残すことが大切だと言われています。
口の中は細菌が多く、高温多湿の環境の上に、咬むときには、体重と同じだけの力が歯にかかります。
こういう厳しい条件の中で80年以上歯を長持ちさせるには、どうしたら良いでしょう?
被せ物や詰め物は劣化や摩耗は避けられません。
「生えてきた歯を強化し、できるだけ歯に詰め物や被せ物をしない」事が重要です。
そのためには、まず3歳未満で甘い物好きになっていないことが前提です。
★低年齢のお子様については、平日の午前中、ゆったりとした雰囲気での受診をおすすめします。(午後は疲れてしまっていたり、眠くなることが多いです。)
★「ライフスタイルが改善すれば、歯の再石灰化が期待できます。再石灰化が起これば、削る必要がなくなる歯が増えます。」
私たちは、軽度の虫歯なら自分で治せるように、ライフスタイルの改善指導を行っています。
現在の当歯科の患者様は、むし歯が軽度以下の方が多いです。
★正しいライフスタイルを早くから身につけ、フッ素で歯を強化し、健康な永久歯を育成した患者様が当院には数多くおられます。
★こむら小児歯科・矯正歯科は、予防中心の小児歯科・矯正歯科なので、まずはライフスタイルについての指導の後、 軽度のむし歯は削らずに経過観察します。▶
★「お子様の成長に合わせた治療を」という方針です。治療の苦手な、お子様は、進行抑制剤でむし歯の進行を遅らせながら慣れて頂き、必要に応じて削って治療という流れです。
当院の治療方針では対応できないケース
①「非常にむし歯ができやすい患者様」
②「むし歯の進行が早い患者様」
③「歯が大きくなってから初めて来られた患者様」の場合、当歯科のやり方では対処できません。
申し訳ありませんが、私たちは、歯の神経の処置が上手ではありません。
以前は阪大から上手な先生を当院に招いて治療をお願いしていましたが、数年前から、550m西(徒歩7分)にあるクラガノ歯科 ▶さんに移動されました。現在では重度のむし歯のお子さんはクラガノ歯科さん、あるいは、ビーバー小児歯科さん ▶、すぎもと歯科さん ▶に依頼しています。
「良い治療結果が最優先」ですので、ご理解いただければ幸いです。
ガイドラインに沿った治療
治療方法は、ガイドラインに基づいて行います
★ ガイドライン ▶に基づいて、長い目で見てお子様の永久歯の健康を考えてご説明・ご指導いたします。
日本学校歯科医会も 「この程度のむし歯はいきなり削るのではなく、まずは観察して下さい」▶というスタンスです。
★昭和の時代は「歯が黒い部分はとにかく削って白くする」のが歯科界の常識でしたが、今はできるだけ削らないミニマムインターベーション(最小限の介入)が当たり前になりました。
当院は1995年から 要観察歯(CO)は削らず、生活習慣を見直し、再石灰化によるむし歯の改善を目指してきました。
小児歯科からの提案
学校の検診について
年1回の学校検診だけでは不十分です。
★日本の乳幼児のむし歯は急減しました。減少した理由としては、色々考えられますが、やはり保護者が高濃度のフッ素入りの歯磨き粉を使用して仕上げ磨きをするという習慣が日本に根付いたことが大きいと思います。
逆に言えば、1500ppmという高濃度のフッ素で歯を磨いていても、むし歯になるのであれば、かなりのハイリスクの患者様であるということになります。
「むし歯=生活習慣病」です。むし歯の発症や予後には、さまざまな要因が影響していますが、それらの要因は、
○むし歯になりやすい体質(唾液の緩衝能等)、歯質などの「遺伝要因」
○むし歯菌や有害物質、ストレス要因などの「外部環境要因」
○食習慣などの「生活習慣要因」
の3つに分けることができます。
私の印象としては、外部環境や生活習慣(約7割) は改善が可能ですが、遺伝要因(約3割)は変えることができません。
そのためハイリスクのお子様に関しては、通常のケアだけではむし歯を防ぎ切れないので、大学病院を受診される事をおすすめしております。